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執筆者の写真ネギタ

#11光の沈殿

小林 亮介 1946-  長野県生まれ

1992年制作


【市民から見た作品】

今回も「この作品、何に見えますか?」と質問してみた。様々な角度の返答があり面白かったが、その中でもしっくりきて笑ってしまったのは「マリオカートのスピードが速くなるところ」という回答だった。私にとってマリオカートは数年前の記憶でうる覚えではあるが、確か虹色のゾーンがあり、その上を通ると加速するのだ。同じく車関連でいくとお次は現実世界の話で、「急カーブの道路標識」という回答があった。恐らく黄色い看板で、赤色の三角形が表示されているあの看板のことを指しているのだろう。確かに言われてみれば全くその通りで、この彫刻が角にないのが少し残念である。

この他の回答として、「男性の正装、女性の十二単衣」に見えるという回答もあった。なんとなく頭に浮かんではいたが、心配になり調べてみると確かに服が重なる様がそのように見えた。彫刻を見てこのような発想に至るとは、なんとも感受性が豊かで、また知識が深い方だなと感じた。


【移住者・CAから見た作品】

遠目から見れば背の高い直方体である。ただ近づいてよーく見てみると分かりやすいところで言えば、上から真ん中にかけて三角形のマークが幾つもあしらわれている。そして下にも目を向けると、色が上とは変わり、かなり薄いことが分かる。そして土台は円形で囲まれている。

ここまで10個の彫刻作品を扱ってきた中での学びとして、彫刻の下の部分、つまり色の薄い部分は石の素材を生かした、手の加わっていない部分だと考えた。なぜ手を加えなかったのかは分からないが、あえて手を加えた部分と加えてない部分の対比がしっかりしている作品は素材の味が出ていて個人的に好みである。これは本当に手が加わっていないのか、それともあえて色の対比を見せようとしたのか、そしてなぜ対比が必要だったのか、そんな視点で作者の想いを覗いてみたい。(佐々木)


【作者の作品に関する想い】

わたくしといふ現象は仮定された有機交流電燈のひとつの青い照明です。


太陽風の粒子が地球の磁場に衝突してオーロラは発光するといわれています。星は、そしてこれを見上げている生命は、どこから来て何処へ消滅してゆくのでしょう。輝いていると感じているこの一瞬にも光は静かに深く、時には身震いをしながらも沈殿し続けているのかもしれません。


すべてこれらの命題は心象や時間それ自身の性質として第四次延長の中で主張されます。

(宮沢賢治詩集「春と修羅」序より)

 

【編集後記】

一度何も考えず、分からないことがあっても止まらずに作者の想いを読んでみる。文系であり、理系の知識に疎い私は、今度はゆっくりと読んでみる。これを何度か繰り返し、私の知識ではどうにもならないと察し、今度は作品をもう一度冷静に眺めてみた。

すると三角形が下を向いているのは沈殿を連想したもので、下の色が違うのは光が沈殿している場所を示したかったのではと考えた。

以前、オーロラを見たことがあるのだが、それがどのような現象によってもたらされるものか、考える暇もないくらい綺麗であった。光とは人間にとってなくてはならないものである。だが初めは地球上にあったものではなく、宇宙にあったものでと思う。そして長い年月を経て、人がオーロラを見てもその原理に興味を示さなくなるくらい一般的なもの、つまり沈殿したのではないだろうか。

「春と修羅」を調べる中で、人間は光を発しながら生きているという文献を見つけた。それが実際のところどうなのか分からないが、この作品はそれを考えさせるくらい、深いテーマ性を持ったものであった。(佐々木)


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