冨田 憲二 1947- 島根県生まれ
1994年制作
【市民から見た作品】
今回も「この作品、何に見えますか?」とストーリーズを用いて聞いてみた。特徴がありそうで、なかなか普段目にすることがないような形である故、回答は少なかったが、リアクション等のレスポンスをいただく事もできた。皆様、本当にいつもありがとうございます。
今回頂いた意見の中で一際目立っていたのは「せんべい」と言う回答だ。私の中でせんべいというと丸い形をしているイメージが強く、また醤油の塗られた茶色のものが真っ先に目に浮かぶ。いわゆるアンコンシャスバイアスと言う偏見にでもあるが、このような形や色のせんべいを見たことがない。この作品のどのような観点からせんべいと答えて下さったのか分からないが、こうやって全く考えもしない角度の回答をいただけると、面白く、また勉強にもなる。
でも、それぞれの穴がかじった様子にも見えなくもない??
【移住者・CAから見た作品】
形の似た2つの彫刻が、上下逆さまに積み重なっている作品。大きな特徴は半円形に開いた穴だろう。どこかで見たことある形、思い出すとそれは昔長崎で見た眼鏡橋だ。確か眼鏡橋のようなアーチ上の形は、力を分散する事で人が通る重さに耐えていたような記憶がある。この作品は人が通る場所にはなく、橋ではないだろうが、下の石がしっかりと上の石を支えている。
なぜ同じような形の彫刻を2つ重ねたのだろうか。どこか支え合うと言うようなメッセージ性を感じた。そう思ってよーく2つの並びを見てみると、若干ではあるがズレていることに気付いた。
もしかすると制作上の都合で綺麗に重ねられなかったのかもしれないが、あえて期待をして書くならズラすことで完璧ではないことを表現したのではないだろうか。昔、日光東照宮には敢えて取り付ける方向を逆にした柱があり、それは完成させない美学(完成品は壊れていくのみ)であると聞いた。この作品も綺麗に重なっていたらここまで話は膨らまなかったが、ズレているからこそ、色々な意味合いを想像する事ができた。そのような視点を持つと、この作品を何度でも見たくなる。(佐々木)
【作者の作品に関する想い】
人間は道によって、その生活圏を際限なく拡大してきました。そこでいろいろな障害に出会い、いったんは妨げられ立ち上がりますが、やがて、それを越えようとします。橋は障害物を越えようとする人間の意志の力の具体的な表情のように思えます。今や自然景観、都市景観の中におびただしい橋が存在し、道の延長上の川や湖沼や海峡の水の上を越えるばかりではなく、鉄道や高速道路のように、街や村の頭上を縦横無尽に超えていきます。橋は単なる障害物を乗り越える手段にとどまらず、未だ見ぬ隣の生活圏、文化圏への驚異、憧憬、友好など特別の意味合いがこめられていたはずですが!
【編集後記】
なんと作者は「橋」を意識して作品を作っていたことが分かった。ただ作者の思う橋はA地点とB地点を繋げるだけのものではなく、A地点とB地点の人々を結びつけるものだった。そう思ってこの作品を見てみると、橋が重なっているのは、今や縦横無尽に橋がかかり、移動、そして人通しの結びつきが何一つ不自由なく行われている様子を示しているのではと感じた。
私は客室乗務員と言う、地点と地点を空の上で結ぶ仕事をしている。空にはもちろん橋などないが、道のような概念があり、その上を飛行機は飛んでいる。このように飛行機が空を飛べるようになったのは、まだ文明のあまりない時代に地域と地域が結びついて、さまざまな知恵が生まれて、その過程の中で飛行機があり、そして今後はそれが宇宙との繋がりへ向かって行くだろう。橋がこの世界にもたらした効果は非常に大きいと感じる。(佐々木)
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